The northern Scotch Whisky
Single malt from Speyside, Scotland
スコットランド、スペイサイド地方のウィスキーは、 甘い口当たり、年とともに深みを増す複雑な花と果実の香りが特徴。国の蒸留所の半分以上がこの小さな地方に集まり、世界に名だたるウィスキーを生み出している。その中でも、歴史に強い足跡を刻みつつある2つの蒸留所を訪ねた。
Photo&Text: Miki Yamanouchi
BYO: Bottle Your Own
ウィスキーは、答えのない方程式
「ウィスキーは、人間に例えるのが分かりやすい。組みこまれたDNAに沿いつつ、最終的な個性は育った環境や栄養により違ってくる」とマネージャーのキースさんは言う。案内してもらうなか「私たちの場合は」と、前置きが出るのも興味深い。これは正しい、あれは間違っている、という答えはないということだ。
長らく稼働していなかった蒸留所だが、竣工は1898年。19世紀のブームに多くの蒸留所を設計したチャールズ・ドイグ氏によるものだ。ワインが紳士の嗜みであった頃に疫病で葡萄が一掃され、ウィスキーが躍り出た時代である。時代変わって20世紀、キースさんの幼少時から数えてブームは計2回。第2次大戦後のアメリカ市場開通時と、80年代後半から今に続く隆盛期だ。現在はフランスや北欧からの需要も多い。「ピート香がある、ないに関わらず、想像するような軽量クラスではない。そのひとひねりある感じが受けるようです」という。
シングルカスクから直接、自分でボトリングしたものを持ち帰ることができる「ボトル・ユア・オウン」というサービスもある。ユニークな物語は、ウィスキーづくりだけには留まらない。
Like father, like son
「らしさ」を誇る小さな蒸留所
少し無骨だけど愛嬌がある。洗練されているが親しみやすい。ベンロマックの設備を見ていると、そんな表現が思い浮かぶ。 世界大戦前の1913年から現役の粉砕機は製作社の名前から、ボビーと呼ばれている。今年で101歳、これを買い取った蒸留所よりも古かったという。 発酵に使われている木桶は、 スペイサイドで一番小さな自社デザインの蒸留器と肩を並べている。蒸留器には小窓がつき、スティルマンは温度計などに頼らず、視覚、味覚、体感による判断を下す。全ては、ウィスキーが辿る道のりに強弱をつけ、ベンロマックらしさを引き出すためだ。
使用する大麦は全て国産で、麦芽づくりも国内で行う。晩夏ともなれば、波打つ金の大麦が平野を満たすスペイサイドは、スコットランドきっての穀倉地帯なのだ。その中でもベンロマックがあるフォレスには、 史跡や謎の巨大石柱があり、太古の時代から名を留める町。手つかずの歴史が残る恵まれた土地柄だ。シングルモルトがゆっくりと育つには、この上ない環境なのである。
Glenfarclas
すべての原動力である水を守る
夏の沢山の雨と、乾いた冬。ここしばらくの不順な天候に変ずることなく、清冽な水を豊かに供するバレー・オブ・グリーングラス。グレンファークラスは、そのなだらかな緑の谷にある。夏の終わりを盛大に彩る低木、スコティッシュ・ヘザーの花が周りの丘を紫に染上げたのは、つい2週間前のこと。今はスモーキーな色合いの緑と茶が、秋の到来を告げている。蒸留所の背景には見渡すところ、建築物は何一つ目に入らない。ウィスキーの源である、そのまま飲める口当たりのよい水を守るべく、3000エーカーの土地を買い取り、環境を守り続けているのだ。
ヘザーが育つ砂岩地帯がゆっくりと濾過する雪どけ水は、ミネラル分と酸性を帯びた、柔らかな理想の水。大麦がその自然の恵みと出会い、発芽によってモルト(麦芽)となっていく。マッシュ桶で温水を加えて糖分を引き出し、ピュアモルトエクストラクトが生まれるのだが、普通この過程に費やすのは48時間のところを、グレンファークラスでは60時間かけている。これにより、風味がさらに引き出されるという。