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【ARBAN MUSEUM # 2】英智をつなぐシナプス的名所「大英博物館」
「芸術的な容貌の美術館」を紹介するARBAN MUSEUM。今回は世界最大級の『大英博物館』を訪問。2000年に改築され、19世紀と21世紀の建築スタイルが手を取り合う、クラシック&モダンな建造物。厳かなギリシャ神殿様式の建物を、ケープのようなガラス構造がふわりと覆い、軽やかさを生み出す。世界中から集められたコレクションは、世紀を股にかけ、世界を駆け巡った英国が手に入れた「智の冒険」のあかしだ。建築が過去と現在を結び、その智に無限の広がりをもたらしている。
ギリシャ文化へ愛をこめた一大オマージュ建築
大きく両翼を広げる、威風堂々たる正面玄関。増加する収蔵品に伴う大改築を依頼された建築家スマーク卿は、当時流行りの復古ギリシャスタイルを採用した。時は1823年、過去2世紀にわたり啓蒙主義が盛行したヨーロッパである。古代を最上とし、ギリシャを手本とする思想の集大成としての建築、具現化が図られたようにみえる。ギリシャ遺跡をはじめとする莫大なコレクションを外観に投影し、後世に残る一大テーマパークを築いた、と言ってもいいのかもしれない。
意識を拡張するグレートコート
館内に足を踏み入れて真っ先に圧巻のスケールを伝えるグレートコート。もとは中庭だったこの空間は、2000年から全天候型の一般開放スペースへと刷新された。四方にガラスの天蓋を放射する白亜の円形建築は、カール・マルクスなどが通った図書館だったが、現在はギャラリーとして機能。落成してしばらくは一般図書室として開放され、筆者も何回か足を運んだことがある。今にして非常に贅沢な時間だったと思う。
直線的な列柱が囲むスペースをぐるりと回遊すると、曲線と直線、放射線が目前でバランスを変え、一足ごとに新しい景色が広がる。この屋内景観を設計したのは、アップルの新社屋も手がけたフォスター&パートナーズ。有機的な「智の網」にも見える 3312枚の天井ガラスには、一枚として同じものはないという。
万人の智の殿堂ここにあり、のエンライトメント・ギャラリー
錯乱の果て、晩年に幽閉されたことでも知られるジョージ3世は、熱心な芸術科学のパトロンでもあった。1820年の没後、国家に寄贈された6万冊に及ぶ蔵書のため、まず着工したのが図書室である。中庭を四方が囲む建築様式をクアドラングルと呼ぶが、この長細い南東ウィングがその出発点だ。長さ91m、高さ12m、最大幅18mという壮大なスケールを達成するにあたって、コンクリート製土台に鉄筋入りのレンガ壁で強度を高める、という当時の最先端技術が使われた。国立図書館の新設により蔵書は移動し、2003年に生まれ変わったのがこのエンライトメント・ギャラリーだ。
英国に興った啓蒙思想のビジュアル化
「ギリシャ=古代」を最上位の学術的思考とし、見習うべきとした啓蒙主義、それに伴った大英博物館の外観デザインに、内側から揺るぎない土台を築いたのがこのエンライトメント・ギャラリーなのではないだろうか。ジェームズ・クックら探検家が持ち帰った「物的証拠」をつぶさに研究し、自然史、地質学、分類学などの芽生えに繋がった学術研究の黎明期を、長い部屋を生かし段階を追って展覧している。あらゆるものからインスピレーションを受け、ものの在り方を考える旺盛な探究心の時代を牽引したイギリス人の知識欲は、やがて産業革命へと引き継がれていった。
紀元前432年の彫刻を保管する「格納庫」ギャラリー
第2次世界大戦で受けた爆撃により、1939年に落成したものの62年まで日の目を見なかったこのギャラリーの建設目的は、パルテノン遺跡の収蔵・展示だった。ギリシャのアテネから遺跡を持ち帰った公爵の名前をとり、エルギン・マーブル(エルギン公爵の大理石)とも呼ばれている。手掛けたのはジョン・ラッセル・ポープ。合衆国ワシントン州の国立美術館などをデザインした建築家で、英国の公的建築を任せられる栄誉に預かったアメリカ人は珍しく、その意味で記憶に残る建築家だ。
繰り返される古典への礼賛
大英博物館の中でも、ひときわ重く、厳かな空気が満ちるパルテノン・ギャラリー。レリーフ状の遺跡がぴったりと両脇の飾り棚に収まる意匠が美しい。両端にギリシャ式の柱がいくぶん唐突に組み込まれているのは、20世紀にリバイバルした新古典主義の顕れなのかもしれない。ロダンも通って観察し、刺激を受けたという彫刻群は、実際のパルテノン神殿にあった位置通りに収められている。ギャラリー両脇の展示エリアに近づくに従って、その大きさに驚くはずだ。
世界の不思議を網羅する館
何しろ、コレクション総数800万点からの常設展示は15万点、スター展示品は枚挙にいとまがない。同一文章が3種の書記法で彫り込まれたロゼッタ・ストーンは古代文字解読の大きな鍵となった。1801年、エルギン・マーブルが英国に渡るころ、この石碑もナポレオン率いるフランス軍から英国軍の手に渡っている。
一方、1756年以降、英国が「獲得」した人間のミイラは120体、動物のミイラは300体以上に上るという。エルギン・マーブルを筆頭に、ロゼッタ・ストーン、エジプトなどの中東諸国からのミイラ。これらが大英博物館の三大コレクションと言われている。
刺激的な事物との出会いが好奇心を呼び起こす
人間の好奇心と探求心を解き放ち、着地点を設けることで全世界からの英智を得た大英博物館。巨大な思考の網で見る者の脳を刺激する、シナプス的な博物館だ。
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